建築人を豊かにすることを目指すA-magazineが、建築設計に携わる人びとが建築設計のどのような点に働く喜びを見出しているのかをシリーズで紹介する”建築設計と働く喜び”。第9回は、アトリエ系の設計事務所でランドスケープデザインを行っている、稲田玲奈さんに寄稿していただきました。建築と密接に関わるランドスケープデザインのお仕事とは、どのようなものなのでしょうか。
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私はフジワラテッペイアーキテクツラボ(フジワラボ)という設計事務所でランドスケープデザインを行っています。大学では慶應義塾大学SFCにて、ランドスケープデザイナーである石川初さんの研究室で学び、そこで得たフィールドワークの力、土地を読み解く力を活かせる設計事務所はどこかと悩んでいたところ、弊社代表の藤原徹平さんに出会い、共に働かせていただくことになりました。
私にとってランドスケープデザインとは、そこで生きる人びとの営みの基盤をつくることであり、その積み重ねによって、その土地にしかない風景を生み出すことです。私はそのような風景を目指し、日々の実践に取り組んでいます。
フジワラボにおいても、地域資源や事業を可視化するためのリサーチを行い、その土地や産業がどのように在るべきかを多角的に捉えながら、構想から具体的な空間提案、さらには空間運用までを地続きに考えています。
1.集落を巡り出会う、「環境と営みに応答しながらかたちづくられる庭」
香川県で育ち、中高時代を岡山県で過ごした私は、学生時代から瀬戸内海のさまざまな地域を巡ってきました。当時、その地域では芸術祭やまちづくり活動が盛んに行われており、それらをきっかけに多くの集落を訪れるようになりました。 その際、私が強く惹かれたのは、アートやまちづくりの活動だけでなく、その土地ごとに異なる景色の違い、家々の構え、道の通り方、そこから眺める周囲の景観、そしてそこで暮らす人びとの営みの姿でした。
大学進学後は、研究室活動を通して、都市部から郊外、農村・漁村までさらに多様な地域を訪れ、そのような風景がどのように立ち現れているのかを考えるようになりました。そこでは、人びとが日々の生活のなかで、環境や身体感覚、暮らしの都合と折り合いをつけながら、自らの生活空間を少しずつかたちづくっていました。私は、そのようにして生まれる風景に強く心を打たれてきました。 そして、なぜそのような風景が生まれるのかを研究として考え続けるなかで、人の営みと環境との関係性の積み重ねによって形成される固有の秩序が存在することに気づくようになりました。
現在、そのような風景が生まれやすかった地域の末端では、人口減少や産業衰退によって営みそのものが失われつつあります。それでも私は、地域の営みが持続し、生活者自身が自然と場を育てたくなるような、その土地にしかない空間を目指してランドスケープデザインに取り組んでいます。
2.鹿児島県霧島市小浜|小浜ヴィレッジ

小浜ヴィレッジ 鳥瞰 撮影:FUJIWALABO
鹿児島県霧島市小浜には、「おばま工務店」という地域工務店があります。有村健弘氏・康弘氏という双子の兄弟が営む工務店であり、地域に根差しながら木造の住宅づくりを続けています。
2019年、彼らが弊社に設計の依頼をしてくださった際、おばま工務店は「10年後、鹿児島県の新築着工率は8割減となるかもしれない」という危機感を抱いていました。人口減少や単身世帯の増加、集合住宅の増加、物価高騰など、さまざまな要因が背景にあります。
「地域に地場工務店が存在せず、その土地独自の家が建たなくなる未来」 を想像すると、どうでしょうか。それは単に、人びとが集合住宅のある都市へ集約され、庭先をもたない暮らしが増えるということではありません。 そこには「家」というものの価値を、喜びを知らない人びとが増えているということではないでしょうか。
おばま工務店の有村兄弟は、そうした未来に対し、「人が家を建てたくなる暮らし」をつくることを目指しました。そして弊社の設計もまた、「家を建てたくなる暮らし」とはどのようなものなのか、どのような関係性や場があればそれを実現できるのかを考えることから始まりました。
その中で計画されたのが、「小浜ヴィレッジ」です。
小浜ヴィレッジは、おばま工務店をはじめとした複数のオフィスや飲食店が集まる「働く場」であると同時に、多様な役割をもった場所です。日常的な店舗営業に加え、毎月開催される市場のように、人びとが集い、それぞれの持つものを売り買いする「商いの場」があります。また、体験型ワークショップや子ども向けイベントなどを通じて、他者と学び合う「学びの場」としての機能ももっています。さらに、地域の人びとがふらりと立ち寄り、互いの近況や地域の出来事を共有できる「情報共有の場」にもなっています。つまり、小浜ヴィレッジとは、暮らしを共にしながら、産業を横断して良い資源や知識を共有する場です。
工務店事業の視点では、木造建築の心地よさを体感できるショールームとしての役割も担っています。また、庭づくりワークショップなどを通して、土と共に暮らす豊かさを伝え、「家」のファンを増やしていくことも目指しています。 その結果、おばま工務店の顧客ネットワークは広がり、小浜地域には8家族、30人以上が移住するなど、「この場所で暮らしたい」と感じる人びとが現れ始めています。
フジワラボが小浜ヴィレッジで行ったことは、①周辺地域から人が訪れ、小浜へ流れていく動線の設計、②地域資源や工務店の産業資源を活かした空間設計、③多様な営みを受け入れる関係性の骨格をもった建築とランドスケープづくり、④竣工後も継続的に関わり、共につくり続ける体制づくり、です。 私自身、このプロジェクトにおいて、ランドスケープデザインとして、小浜地域のリサーチや構想立案、その実現に向けたランドスケープデザインの設計に携わってきました。さらに現在は、完成後の場を育てていくためのワークショップの企画・運営にも取り組んでいます。

小浜ヴィレッジ 配置図 作成:FUJIWALABO
現在は、フジワラボの分室も小浜ヴィレッジ内に設け、継続的にこの場所へ通っています。2024年3月のお披露目会では、地域のおじいちゃん、おばあちゃん、子どもたちが多く訪れてくれました。カマゴヤ広場では大きなサルスベリの木の下でおじいちゃん、おばあちゃんがおしゃべりをし、その背後の池では子どもたちが生き物を追いかけながら遊んでいました。


小浜ヴィレッジ お披露目会の様子 撮影:稲田玲奈
その風景を見た時、設計中私のなかにあったイメージが、想像の枠から大らかにはみ出した、「場所」として立ち上がり始めた感覚がありました。そして、人びとは日々小浜ヴィレッジを訪れ、営みのなかでその場に触れることで、場を変化させようとしています。その姿を目撃した時、私は心の底から安堵しました。場所に血が通い、生命のようになっていく感覚といえばよいでしょうか。
私は、自分自身の「喜び」のためにランドスケープデザインを行うつもりはありませんが、その私の安堵は「喜び」に近い感覚だったと思います。それは、私がこれまで見惚れてきた各地の庭や風景に、少し近づけたのかもしれないと感じたからです。
一方で、実際に場が立ち上がっていく様子を見ることで、自分自身が想像しきれていなかった空間設計や計画の甘さにも気づかされます。 そして、私自身流動的に移ろう生命として、日々フィールドを歩き、対話し、「どんな場所を目指そうか」と試行錯誤し続けています。その終わりのない環境や営みへの応答の時間そのものも、私にとっては大切な喜びのひとつです。
(企画・編集:ロンロ・ボナペティ)
稲田 玲奈
1994年香川生まれ。2015年から2020年まで慶應義塾大学SFC石川初研究室にてランドスケープ思考を学ぶ。農地から都市郊外、都心までを一続きの目線を持ってフィールドワークを行う。2018年から全国の民家の外部空間の調査を始め、環境・生活と共に動的に移り変わる庭空間について考察を続けている。2020年よりフジワラテッペイアーキテクツラボ。ランドスケープデザイン室の立ち上げから関わる。現在同室長。担当作は「チドリテラス」「扇芳閣」「小浜ヴィレッジ」等。