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【コラム】建築に関わる人の視点や想いを伝えるコラムや、スキマ時間にお楽しみいただけるエッセイ、インタビューを紹介します。

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2026.04.28

建築設計と働く喜び──第8回 金子奨太

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建築人を豊かにすることを目指すA-magazineが、建築設計に携わる人びとが建築設計のどのような点に働く喜びを見出しているのかをシリーズで紹介する”建築設計と働く喜び”。第8回は、アトリエ系の設計事務所を経て、現在は東京と群馬の2拠点で活動するSNARKに所属し地元群馬で勤務されている金子奨太さんに寄稿していただきました。

 

 

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東京と群馬の2拠点に事務所を構えるSNARKに所属し、設計をしている金子奨太です。大学および大学院時代は神奈川で過ごし、在学中にはフランスへの交換留学を経験しました。大学院修了後は都内の設計事務所で2年間勤務し、その後東京と群馬に事務所を構えるSNARKに転職しました。SNARKでは約7年間、東京事務所に勤務し、今年3月から群馬へ移住し、高崎事務所で働いています。

 

このような文章を書く機会をいただいたので、学生時代から現在に至るまで、自分が大切にしてきたことや、いまの自分をかたちづくっているものについて振り返ってみたいと思います。

 

 

「Architecture for the life you live ― 生き方や価値観に、最も似合う建築を」

 

この言葉はSNARKが掲げているビジョンであり、自分としても大切にしている指針です。事務所として、お施主さんの価値観やライフスタイルに寄り添う設計を重視しています。一方的にデザインを押し付けるのではなく、対話を重ねるなかで、その人らしさが自然と滲み出るような設計を心がけています。対話のなかで設計に落とし込める要素がみつかることも多く、アイデアの広がりにもつながっています。

 

またSNARKには3人の代表がいますが、それぞれのキャラクターが際立っており、趣味や好みも微妙に異なります。それはスタッフも同様で、さまざまなカルチャーに影響を受けた個性豊かなメンバーが集まっています。事務所としては、そうした個性も大切にしていて、レンガのように均一な人材で組織を構成するのではなく、石垣のように異なる形を組み合わせ、それぞれの強みを活かしながら弱みを補い合う組織を目指しています。

 

 

「組織の中で自立する」

 

前職はいわゆるアトリエ事務所に近いかたちで、スタッフは数年間所属した後に独立や転職をするのが一般的でした。自分も、主担当として2年間設計監理を行ったプロジェクトが竣工を迎えるタイミングで次第に転職を意識するようになりました。都内で働きながらも、地元である群馬での設計に関わりたいという思いと、将来的に群馬へ戻ることを見据えて事務所をリサーチするなかで、自然とSNARKに辿り着きました。

 

SNARKでは、スタッフが良いと考える案を軸にブレインストーミングを重ね、設計案を育てていくプロセスを取っています。完成した建築には自然とスタッフの個性が反映され、それが責任感ややりがい、自立心にもつながっています。

 

入社後には、個人的に依頼された仕事をSNARKとして受注し、提案から設計、現場監理まで一貫して任せてもらう機会が何度かありました。個人の裁量で設計させてもらえる一方で、自ら判断を下す難しさにも直面しましたが、会社に並走してもらいながらプロジェクトを最後までやり切ることができました。その経験は自分を大きく成長させてくれたと感じていますし、何より強いやりがいを実感する機会にもなりました。

 


個人で依頼されてSANRKで設計したプロジェクト

ブリュワリー兼レストラン https://snark.cc/work/bryu
駅の売店 https://snark.cc/works/think-kiryu/
パーソナルジム https://snark.cc/works/personal-gym-yst/
戸建住宅リノベーション https://snark.cc/works/house-in-gosen/


 

 それを機に独立とは異なる新しい組織のあり方や関係性について考えるようになりました。組織として一定の基盤があるなかで個人が新しい挑戦を続けられること、またチームで取り組む多様なプロジェクトに関わることで、異なる視点を取り入れながら思考の幅を広げていけることは、組織で働く大きな強みだと感じています。

 

現在は、自分の入社時に比べて組織も大きくなり、自身もチームをまとめる立場になりました。これからは、自分が得てきた知見や経験を下の世代に還元していきたいと考えています。スタッフ一人ひとりが組織に軸足を置きながらも自立心をもち、それぞれが新たな仕事を生み出し、組織とともに成長し続けていく。そうした状態が、自分にとっての理想的な組織のかたちです。

 

 

「手を動かすことで見えること」

 

大学・大学院では、みかんぐみ共同主宰の曽我部昌史さんの研究室に所属していました。研究室では実務と連動したプロジェクトも多く、図面や模型制作に加えて現場作業に関わる機会も多いのが特徴でした。地方の現場に長期間滞在することもあり、実際に現場に身を置くことで見えてくることが数多くありました。

 

既存建物の解体や、床・天井の塗装などを自ら行うこともあり、作業の過酷さを体感すると同時に、自分よりも年上の職人の方々が図面をもとに動く姿を見て、一本の線に対する責任の重さを初めて実感しました。

 

また、実際に体を動かすことで素材への理解も深まります。例えば、サブロク(3尺×6尺)のケイカル(ケイ酸カルシウム)板を自分で運び、取り付ける際の重量感や割れやすさなど、触れてみなければ分からないことは多くあります。(時には50〜60kgほどある枕木を運ぶこともありました。)

 

SNARKでも、事務所の棚などは基本的に自分達で製作しています。素材やデザイン、サイズ感の他にも、自分たちで施工する事を前提に、施工手順や搬入経路など考えながらホームセンターで部材を購入して製作しました。搬入経路や施工手順を踏まえてサイズや納まりを検討しています。

 

学生時代から続くこうしたDIYの習慣は、実務における意匠設計にも大きな影響を与えており、自分をかたちづくる重要な要素になっています。

 


全ての木製棚をDIYで作っているSNARK東京オフィス
https://snark.cc/work/snark-tokyo-2


 

 

「豊かさとともにある設計活動」

 

大学院時代には、南フランスのモンペリエ国立高等建築学校(ENSAM)へ交換留学する機会を得ました。約1年間の留学期間中、前期・後期を通して5つのスタジオで設計課題に取り組みました。

 

そこで最初に受けたカルチャーショックは、徹夜をしたり学校に泊まり込んだりする学生がいないことでした。多くの学生は授業時間内に作業を終え、授業が終わるとカフェに行きコーヒーをすすり、夜は友達の家にビールとワインを持参して夕食を楽しんでいました。(共用スペースで遅くまで模型を作っていた自分は「クレイジーだ」と言われました。)

 

しかし、決して課題のクオリティが低いわけではなく、むしろ一人ひとりの軸が明確で、自分のやりたいことや目指す方向がはっきりしている印象を受けました。それは日常生活の豊かさのなかで培われた感性によるものであり、学校や職場に閉じ籠るだけでは得られないものが街の中に溢れている事を学びました。

 

それ以来時間があれば街に出て、買い物をしたり、ぼーっと景色を眺めたり、音楽を聞いたり、設計に集中する以外の時間を大事にするようになりました。

 

 

「これからの設計人生」

 

群馬へ移り住んだことで、自分を取り巻く環境は大きく変わりました。現在は妻と2人の子どもとともに仮住まいで生活しながら、定住のための自邸をSNARKのプロジェクトとして設計しています。施主となるのは初めての経験であり、意思決定の難しさや住宅ローンの手続きなどに試行錯誤しながらも、家族の将来を思い描きながら設計する時間に、改めて建築の喜びと豊かさを感じています。

 

今後、SNARKの体制や家族の成長とともに、自分を取り巻く環境はさらに変化していくのだと思います。そのなかで建築に関わり続けるためには、自分の個性や感性を軸としてもち続けながら、環境の変化に寄り添い、自分の人生の一部として設計と向き合っていくことが大切だと感じています。

 

これから出会う新たな自分と、自分が手がける建築に期待していきたいと思います。

 

(企画・編集:ロンロ・ボナペティ)

 

 

金子奨太

1992    群馬県生まれ

2014    神奈川大学工学部建築学科 卒業

2017    神奈川大学大学院工学研究科建築学専攻 修了

在学中にENSA Montpellier(フランス)に留学

2017-2019    成瀬・猪熊建築設計事務所 勤務

2019-    SNARK Inc.

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