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2025.07.07
住宅展示場のメタバース活用事例5選!メリットも解説

建築設計におけるプレゼンテーションは、クライアントとのイメージ共有や円滑な合意形成の鍵を握る重要なプロセスです。
しかし、図面やパース、模型だけでは、空間のスケール感や素材の質感、光の入り方といった設計意図のすべてを伝えきれないもどかしさを感じている設計者の方も多いのではないでしょうか。
その課題を解決するソリューションとして、今「メタバース」が建築業界の注目を集めています。
本記事では、建築設計に携わる方々に向けて、住宅展示場という領域で先行するメタバースの活用事例を5つ厳選して紹介します。
さらに、メタバースが設計プロセスやクライアントワークにどのような変革をもたらすのか、そのメリットを専門的な視点から深く掘り下げて解説します。
ぜひ最後までご覧ください。
メタバースとは
メタバース(Metaverse)は、「超越(Meta)」と「宇宙(Universe)」を組み合わせた造語で、一般に「インターネット上に構築された、リアルタイムで多人数が参加可能な三次元の仮想空間」を指します。
ユーザーは「アバター」という分身を介して空間に参加し、他者とコミュニケーションを取りながら、空間内を自由に移動・体験できます。
VRと同一視されがちですが、メタバースの本質は、ユーザーがログアウトしても空間が存続し続ける「永続性」と、複数のユーザーが同じ体験を共有できる「同時性」にあります。
これは、単なる視覚体験ツールではなく、コミュニケーションとコラボレーションのための「場」として機能することを意味します。
建築設計の分野では、このメタバースがBIMデータと連携し、設計初期段階での空間検証、関係者間での合意形成、そしてクライアントへの革新的なプレゼンテーションツールとして応用され始めています。
まさに、設計者の働き方そのものを変革するポテンシャルを秘めた技術と言えるでしょう。
住宅展示場のメタバース活用事例5選
BtoCの最前線である住宅展示場では、すでにメタバースの先進的な活用が始まっています。
設計者にとって、これらの事例は自らの設計提案に応用できるヒントの宝庫です。
①LiveStyle PARTNER
大手ハウスメーカーの大和ハウス工業が自社で運営する「LiveStyle PARTNER」は、設計者とクライアント、そしてその家族間のコミュニケーションを革新するメタバース住宅展示場です。
スマートフォンやPCから手軽にアクセスでき、最大6名の見学者がアバターとして参加できます。
設計者や担当者もアバターで同席し、リアルタイムで対話しながら空間を案内・共有できる、双方向性を重視したプラットフォームです。
このシステムの特筆すべき点は、物理的な制約を完全に超えた視点での設計検証を可能にすることです。
例えば、現実では確認が困難な屋根の上に立ち、太陽光パネルの配置や雨仕舞いのディテールを視覚的にチェックしたり、子どもやペットの低い視点から空間を見渡し、家具の配置が安全か、コンセントの高さは適切かといった、ユニバーサルデザインの観点からの検証を直感的に行ったりできます。
さらに、クライアントが自らの手で床や壁紙、天井の素材、インテリアのスタイルをその場で瞬時に切り替えられる機能は、合意形成のプロセスを劇的に変えます。
設計者が用意した複数のマテリアル案を、クライアントはゲーム感覚でシミュレーションでき、イメージの齟齬を限りなくゼロに近づけることが可能です。
これにより、マテリアル選定における手戻りを防ぎ、設計プロセス全体の効率化に大きく貢献します。
出典: Daiwa House「LiveStyle PARTNER」
②東急不動産
東急不動産は、「ブランズシティ湘南台」のマンションギャラリーにおいて、複数人が同時に体験できるメタバースモデルルームを公開しました。
このプロジェクトは、メタバース企画制作会社ハシラスのソリューション「キネトスケイプ」を活用しており、建築業界におけるコミュニケーションのあり方を変える重要な一歩となっています。
このシステムの最大の革新は、従来の一人用VR体験の制約を打ち破り、複数人が同じ仮想空間を同時に視聴・体験できる点にあります。
これにより、設計者はクライアント家族と仮想空間内で合流し、リアルな内覧さながらに対話しながら、空間の広さや動線、デザインの意図を伝えることが可能になりました。
その場で生まれる家族間の会話や反応を直接感じることで、設計者はより深いレベルでニーズを汲み取り、的確な提案へと繋げられます。
特に若い世代をターゲットとしたこの物件では、ゲームのように直感的なメタバース体験が有効と判断され導入に至りました。
これは、デジタルネイティブなクライアントに対するプレゼンテーションの未来像を示すものであり、設計者が習得すべき新しいコミュニケーション手法の好例と言えるでしょう。
出典:東急不動産「「ブランズシティ湘南台」のマンションギャラリー VRモデルルームを初導入 複数人同時に体験できるVRモデルルームで物件検討容易に」
③メタ住宅展示場
リビン・テクノロジーズ株式会社が運営する「メタ住宅展示場」は、全国の住宅会社のモデルハウスを仮想空間に集約した、プラットフォーム型のバーチャル展示場です。
PCやスマートフォンから誰もが手軽にアクセスできます。
この展示場の最大の特徴は、実際に建築された住宅を高画質な4K実写でデジタル撮影し、コンテンツを制作している点です。
これにより、CGでは再現が難しい素材の微細な質感や、空間が持つリアルな空気感を忠実に伝えることが可能です。
設計者にとっては、自らが手掛けた竣工物件の魅力を、加工することなくありのままに、ウォークスルー体験として提供できるのが大きな利点です。
小規模な設計事務所や工務店も、物理的なモデルハウスを持つことなく、竣工物件をデジタル資産として全国の潜在顧客にアピールできるため、低コストで効果的なマーケティングツールとして活用が期待されます。
出典:メタ住宅展示場「公式サイト」
④LIVRA WORLD
岡田工業株式会社が運営する「LIVRA WORLD」は、特に中小の工務店や設計事務所の活用を視野に入れたメタバースプラットフォームです。
PCやスマホから24時間アクセス可能で、その最大の強みはリアルタイムでのインタラクティブな設計変更機能にあります。
クライアントの要望に応じてその場で間取りを変更したり、内外装のカラーシミュレーションを試したりと、これまでのプレゼンツールにはない動的な設計協議を実現しました。
さらに、仕様変更に伴う概算費用を即座に提示する価格シミュレーション機能も備えています。
設計者にとっては、デザインとコストを常に連携させながら透明性の高い提案ができるため、クライアントとの合意形成が円滑に進みます。
これにより、購入確度の高い顧客との効率的な商談を可能にする、実践的なビジネスツールとなっています。
出典:LIVRA WORLD「公式サイト」
⑤VRモデルハウス
工務店などが個別に展開する「VRモデルハウス」は、実際に設計・施工した注文住宅を、高品質なデジタルツインとして仮想空間に再現するサービスです。
設計者にとっての利点は、単なるウォークスルーに留まらない、高度な環境シミュレーションにあります。
窓から差し込む光の動きや、昼と夜とで変化する空間の雰囲気をリアルに再現し、クライアントに設計意図をより深く、直感的に伝えることが可能です。
さらに、プラットフォームによっては、資金計画などの専門的なオンラインセミナーや、設計者とのオンライン面談予約機能も統合されています。
デザインの魅力を伝えるだけでなく、初期の顧客教育から具体的な商談へとスムーズに繋げる、効率的なプロジェクト獲得ツールとしても機能する点が特徴です。
出典:工務店のメタバース住宅展示場「公式サイト」
住宅展示場にメタバースを活用するメリット
メタバースの活用は、クライアントに新たな体験価値を提供すると同時に、設計者自身の働き方にも大きなメリットをもたらします。
ここでは、その利点を「クライアント側」「設計者・会社側」の双方から解説します。
クライアント側のメリット
クライアント側のメリットは、以下の通りです。
24時間365日、好きな時に見学できる
クライアントは、多忙なスケジュールの合間を縫って、深夜や早朝など、自身の都合の良い時間に何度でも仮想空間を訪れることができます。
これにより、設計案をじっくりと時間をかけて吟味し、設計意図への理解を深めることが可能になります。
熟考する時間が増えることは、クライアントの納得感を高め、最終的な意思決定の質を向上させます。
自宅から参加できる
遠隔地に住むクライアントとの打ち合わせが、劇的にスムーズになります。
物理的な移動の負担なく、同じ仮想空間でアバターを介してリアルタイムにコミュニケーションが取れるため、海外のクライアントとのプロジェクトなど、地理的な制約を超えたコラボレーションが可能です。
複数の関係者が異なる場所から同時に参加し、設計案をレビューすることも容易になります。
しつこい営業の心配がない
この項目は一般消費者向けのメリットですが、設計者視点では「クライアントが、設計者と対等な立場で純粋に空間を評価できる」と言い換えられます。
余計なプレッシャーなく、クライアント自身の感性で空間を自由に歩き回り、感じたことを素直にフィードバックできる環境は、より本質的な対話を生み、設計の質を高めることに繋がります。
家具を置いた広さや生活動線をリアルに体感できる
クライアントが持っている家具の3Dモデルを空間内に配置したり、アバターを動かしてキッチンでの作業動線や家事動線を確認したりすることで、「図面では分からなかったけど、ここは少し狭いかもしれない」といった具体的なフィードバックを引き出せます。
これにより、設計段階での手戻りを大幅に削減できます。
設計者・会社側のメリット
設計者・会社側のメリットは、以下の通りです。
時間や場所の制約がなくなり、集客力が向上する
自社の設計事例をデジタルモデルハウスとしてメタバース上に公開することで、地理的な制約なく、世界中の潜在クライアントにアピールできます。
ポートフォリオサイトが「静的」な作品集であるのに対し、メタバースは「動的」な体験型作品集です。
設計思想や空間の質に共感する、感度の高いクライアントとの新たな出会いの機会を創出します。
リアルな視覚情報で魅力を伝え、成約率アップに貢献する
設計意図を、言葉や図面以上に正確かつ魅力的に伝えることができます。
光の移ろいや素材の質感、空間の奥行きといった、設計者のこだわりを体験として共有することで、クライアントの深い共感と理解を得られます。
この「体験価値」は、提案の説得力を飛躍的に高め、成約率アップに直結します。
感染症のリスクなく、安全な見学体験を提供できる
非対面・非接触での打ち合わせやプレゼンテーションを可能にし、クライアントと設計者双方の安全を確保します。
これは、社会情勢の変化に左右されない安定した事業継続を可能にするだけでなく、多様な働き方を推進する上でも重要な要素です。
リモートワーク中心の設計事務所など、新しいワークスタイルとも高い親和性を持ちます。
案内業務を効率化し、コストを削減できる
BIMとの連携により、設計データをプレゼンテーション用のメタバースコンテンツへスムーズに展開できれば、パース作成などに費やしていた時間を大幅に短縮できます。
設計プロセス全体をデジタルで一気通貫させることで、業務は効率化され、設計者はより創造的な作業に集中できます。
これは単なるコスト削減に留まらず、設計事務所全体の生産性向上に貢献します。
まとめ
メタバースは、単なる目新しいプレゼンテーションツールではありません。
それは、設計者、クライアント、施工者といったすべての関係者が、プロジェクトの初期段階から完成後のイメージを高い解像度で共有し、円滑な合意形成をするための、次世代のコラボレーションプラットフォームです。
今回紹介した事例をヒントに、自らの設計プロセスにメタバースをどう組み込んでいけるか、ぜひ想像してみてください。
そこには、設計という仕事の未来を、より創造的で豊かなものにする可能性が広がっています。