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2025.06.06

建築業界の3Dプリンター活用事例を紹介!メリット・デメリットも徹底解説

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近年、建設業界では人手不足や資材価格の高騰など、さまざまな課題が顕在化しています。

こうした状況を打破する革新的な技術として注目されているのが「3Dプリンター」です。

複雑な形状の建材や、ときには建物そのものを短期間かつ低コストで造形できる可能性を秘めており、建築のあり方を大きく変えるかもしれません。

本記事では、建築業界における3Dプリンターの活用について、その基本からメリット・デメリット、国内外の最新事例、そして気になる疑問点まで、網羅的に解説します。

未来の建築を形作る3Dプリンター技術の可能性を深掘りしていきましょう。

 

3Dプリンター住宅とは

 

3Dプリンター住宅とは、その名の通り、3Dプリンター技術を用いて建設される住宅のことです。

従来の建築方法が、柱や梁といった部材を組み上げていく工法であるのに対し、3Dプリンターは材料を一層ずつ積み重ねて立体物を造形する工法を用います。

具体的には、コンピューターで作成された3Dモデルデータを基に、大型の3Dプリンターが特殊なコンクリート系材料や樹脂などを吐出し、壁や構造体を直接形成していきます。

この技術により、従来では困難だった複雑なデザインの実現や、建設プロセスの大幅な自動化が期待されています。

建築用の3Dプリンターには、巨大なアーム型のロボットが材料を吐出して壁を造形していくタイプや、門型のフレーム内をプリンターヘッドが移動して造形するタイプなどがあります。

住宅スケールの大きな構造物を造形するため、プリンター自体も非常に大型になるのが特徴です。

 

3Dプリンター住宅のメリット

 

3Dプリンター住宅には、従来の建築方法と比較して多くのメリットがあります。

ここでは主な4つのメリットについて詳しく見ていきましょう。

 

 

施工期間の短縮

 

3Dプリンター住宅の最大のメリットの1つは、施工期間の大幅な短縮です。

3Dプリンターは設計データに基づいて自動で壁などの構造体を造形するため、人の手による作業工程を大幅に削減できます。

天候に左右されにくい環境であれば、24時間連続での稼働も原理的には可能です。

これにより、住宅供給のスピードアップはもちろんのこと、災害時の仮設住宅建設など、迅速性が求められる場面での活用も期待されます。

 

建築コストの削減

 

建築コストの削減も、3Dプリンター住宅が注目される大きな理由です。

主に以下の要因によりコストダウンが期待できます。

 

 

【人件費の削減】

 施工の自動化により、現場作業員の数を大幅に減らすことができます。

特に熟練工不足が課題となっている現代において、大きなメリットとなります。

 

【材料費の削減】

必要な量の材料だけを正確に積み重ねていくため、無駄な材料の発生を抑制できます。

また、従来工法で必要だった型枠が不要になる、あるいは簡略化できるため、型枠材やその設置・解体に関わるコストも削減可能です。

 

工期短縮による間接コストの削減: 現場管理費や重機のリース期間短縮など、工期が短くなることによる間接的なコスト削減効果も見込めます。

 

環境負荷の低減

 

建設業界は、伝統的に多くの資源を消費し、廃棄物を排出するなど、環境への負荷が大きい産業の1つとして認識されています。

こうした課題に対し、3Dプリンター技術は持続可能な建築を実現するための有効な手段となる可能性を秘めています。

具体的には、まず材料を必要な分だけ正確に積み重ねていくため、建設現場での廃材発生を大幅に抑制可能です。

これにより、廃棄物処理にかかるコスト削減はもちろんのこと、環境への影響も軽減されます。

さらに、建設現場やその近隣で3Dプリンターを用いて部材を製造することが可能になれば、工場から建設現場までの長距離輸送が不要となり、輸送に伴う二酸化炭素排出量の削減にも繋がります。

加えて、3Dプリンター用の材料として、リサイクル素材や建設現地の土といった、より環境負荷の低い素材を活用する研究開発も進んでおり、これが実用化されれば、資源の有効活用と環境保全を両立するサステナブルな建築の実現がより一層期待されます。

 

デザイン性の向上

 

3Dプリンターは、従来の工法では製造が難しかったり、コストがかかりすぎたりした複雑な曲線や有機的なフォルム、独創的なデザインを比較的容易に実現できます。

設計データに基づいて忠実に造形するため、設計者の創造性を最大限に活かした建築が可能になるのです。

3Dプリンターができることを以下にまとめました。

 

自由な形状の実現 直線的なデザインだけでなく、滑らかな曲面や複雑な幾何学模様など、デザインの自由度が格段に向上します。

これにより、画一的ではない、より個性的で魅力的な建築空間を生み出せます。

パーソナライズされた設計 施主の細かな要望に応じたオーダーメイドの設計や、オンデマンドでの部材製造も容易になります。

これにより、多様なニーズに対応した住宅供給が可能になります。

構造最適化 コンピュータ解析と組み合わせることで、強度を保ちつつ材料を最小限に抑えた、合理的で美しい構造デザインも追求できます。

 

3Dプリンター住宅のデメリット

 

多くのメリットがある一方で、3Dプリンター住宅にはまだいくつかの課題やデメリットも存在します。

普及に向けて克服すべき点を理解しておくことも重要です。

 

 

建築基準法への非対応

 

日本において3Dプリンター住宅を普及させる上での大きなハードルの1つが、現行の建築基準法への対応です。

現在の建築基準法は、3Dプリンターのような新しい工法を想定して策定されていません。

そのため、3Dプリンターで造られた構造物が、地震や台風などに対する安全性や耐久性をどのように評価し、法的に認可されるのかという点が課題となります。

今後、3Dプリンター建築に対応した法整備や技術基準の策定が進むことが期待されます。

 

使用できる素材の限定

 

現状、建築用3Dプリンターで使用される主な材料は、特殊な配合のセメント系材料(モルタルなど)が中心です。

これらの材料は速硬性や積層に適した粘性が求められますが、従来の鉄筋コンクリートと同等の強度や耐久性を確保するためには、材料開発や補強方法の工夫が不可欠です。

木材や断熱材、仕上げ材など、住宅に必要な多様な素材を3Dプリンターで直接造形することはまだ難しく、利用できる素材の選択肢が限られている点がデメリットと言えます。

 

追加工事の必要性

 

3Dプリンターで造形できるのは、主に壁や床といった建物の躯体部分です。

窓やドアの設置、屋根工事、電気・ガス・水道などの設備工事、内装仕上げ、断熱工事などは、従来の工法と同様に別途行う必要があります。

そのため、3Dプリンターで躯体を短期間・低コストで造形できたとしても、それ以外の工事にかかる費用や期間を考慮すると、建物全体のコスト削減効果や工期短縮効果が限定的になるでしょう。

トータルでの効率化を見据えた設計・施工計画が重要となります。

 

施工場所の限定

 

建築用の3Dプリンターは非常に大型であり、その設置や移動にはある程度のスペースと適切な地盤が必要です。

また、プリンターの種類によっては、雨風の影響を受けないように屋根や囲いを設ける必要があるなど、施工環境が限定されます。

特に、都市部の狭小地や傾斜地など、条件の厳しい場所での施工は難しいでしょう。

プリンターの小型化や全天候型への対応など、技術開発による克服が期待されます。

 

建築業界における3Dプリンター事例5選

 

日本国内でも、建築分野における3Dプリンターの活用に向けた動きが活発化しています。

ここでは、先進的な取り組みを行っている企業やプロジェクトの事例を5つ紹介します。

 

 

株式会社Polyuse

 

株式会社Polyuseは、建設用3Dプリンター技術の開発と実用化をリードする日本のスタートアップ企業です。

特に土木構造物や小規模建築物への応用を進めており、国内で実際に施工された3Dプリンター構造物の実績を積み重ねています。

同社は、国産の建設用3Dプリンターの開発に成功し、材料の地産地消を目指した研究開発も行っています。

施工の自動化による省人化、型枠レス工法によるコスト削減と環境負荷低減を強みとしており、擁壁やベンチ、仮設構造物など、多岐にわたる分野での活用が期待されています。

 

セレンディクス株式会社

 

セレンディクス株式会社は、3Dプリンター住宅の開発に取り組んでいる企業です。

同社が開発した球体型の住宅「Sphere」は、24時間以内という短期間で施工可能な点が大きな特徴で、10平方メートルクラスで約300万円台という低価格を実現しています。

法規対応や居住性能の向上など、実用化に向けた課題にも積極的に取り組んでおり、3Dプリンター住宅の可能性を広げる存在として注目されています。

 

出典:セレンディクス株式会社「Sphere(スフィア)

 

大林組

 

大手ゼネコンである大林組も、建設用3Dプリンター技術の研究開発に積極的に取り組んでいます。

同社は、複雑な形状の構造物を高精度かつ効率的に建設することを目指し、独自の3Dプリンティングシステムや材料の開発を進めています。

特に、構造体としての性能確保や大型構造物への適用に力を入れており、実証実験を通じて技術的な課題の克服と実用化の可能性を探っています。

例えば、コンクリート構造物を積層造形する技術や、仕上げ工程までを自動化する技術などが研究されています。

将来的な建築生産プロセスの革新を目指した、長期的な視点での取り組みが特徴です。

 

出典:大林組「公式サイト

 

Lib Work

 

Lib Workは、戸建て住宅の企画・設計・施工・販売を行う企業で、3Dプリンターを活用した住宅開発にも挑戦しています。

同社は、デザイン性の高い住宅を手頃な価格で提供することを目指しており、その手段の1つとして3Dプリンター技術に注目しています。

具体的な住宅商品としての展開や、設計の自由度を活かした新しい住空間の提案などが期待されます。

住宅メーカーとしてのノウハウを活かし、3Dプリンター技術と従来の建築技術を融合させることで、顧客ニーズに応える新たな価値創造を目指しています。

 

出典:Lib Work「公式サイト

 

會澤高圧コンクリート株式会社

 

會澤高圧コンクリート株式会社は、コンクリート製品の製造・販売を主力事業とする企業です。

近年では、建設用3Dプリンターの材料開発や技術開発にも積極的に取り組んでいます。

同社は、3Dプリンターに適した特殊なコンクリート材料の開発に強みを持ち、高強度かつ速硬性を備えた材料を供給することで、3Dプリンター建築の品質向上に貢献しています。

また、自社でも3Dプリンターを導入し、建築物や土木構造物の試作・製造を行っています。

材料メーカーとしての知見と技術力を活かし、インフラ分野などでの3Dプリンター活用を推進しており、持続可能な社会基盤整備への貢献を目指しています。

 

出典:會澤高圧コンクリート株式会社「公式サイト

 

建築用3Dプリンターに関するよくある質問

 

建築用3Dプリンターや3Dプリンター住宅に関して、多くの方が疑問に思う点をQ&A形式で解説します。

 

 

3Dプリンターに使用されている材料は?

 

現在、建築用3Dプリンターで最も一般的に使用されているのは、セメント系の材料です。

セメントを主成分とし、骨材、混和材、水などを適切に配合したもので、3Dプリンターのノズルから吐出しやすく、かつ積層しても形状を保持できるような流動性と速硬性が求められます。

 

3Dプリンター住宅の耐震性や断熱性は?

 

3Dプリンター住宅の耐震性や断熱性は、設計、使用材料、施工方法によって大きく左右されます。

 

【耐震性】

3Dプリンターで造られる壁構造は、材料の特性や積層方法、壁の厚み、形状などによって強度が異なります。

現状のセメント系材料だけでは、日本の建築基準法が求める高い耐震性を確保することが難しい場合もあり、鉄筋を併用したり、構造計算に基づいた補強設計を行ったりする必要があります。

地震の多い日本では特に重要な課題であり、耐震性能を実証するための研究開発や実験が続けられています。

 

【断熱性】

3Dプリンターで造形される壁は、中空構造にしたり、断熱性能の高い材料を配合したりすることで、ある程度の断熱効果を持たせることが可能です。

しかし、日本の気候条件下で十分な居住快適性を得るためには、従来の住宅と同様に、別途断熱材を施工したり、高性能な窓やドアを採用したりする必要があります。

断熱性については、まだ発展途上の技術であるため、今後の技術革新や実証データの蓄積が待たれるところです。

 

3Dプリンター住宅の耐用年数は?

 

現時点での一部の見解や海外の実証プロジェクト、あるいは特定の条件下での試算などでは、3Dプリンター住宅の耐用年数について15年〜20年程度を1つの目安と言及されています。

ただし、これはあくまで現段階での参考情報の1つと捉えるべきでしょう。

主材料として使われるセメント系材料自体は、適切に施工されれば数十年の耐久性を持つポテンシャルがあります。

しかし、3Dプリンター特有の積層構造が長期的にどのような強度変化や劣化挙動を示すかについては、さらなるデータ収集と継続的な検証が必要です。

 

まとめ

 

建築業界における3Dプリンター技術は、施工期間の短縮、コスト削減、環境負荷の低減、デザイン性の向上といった多くのメリットをもたらす可能性を秘めています。

すでに国内外で実用化に向けた様々な取り組みが進んでおり、その進化のスピードには目を見張るものがあります。

一方で、建築基準法への対応、使用素材の限定、追加工事の必要性など、解決すべき課題も残されています。

しかし、これらの課題を克服するための技術開発や制度整備も着実に進んでいます。

3Dプリンター技術は、近い将来、私たちの住まいや街の風景を大きく変えるかもしれません。

人手不足や環境問題といった現代社会の課題に対応し、より自由で持続可能な建築を実現するためのキーテクノロジーとして、その動向から目が離せません。

今後の技術革新と普及に大いに期待しましょう。

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