人生の指針となるようなインタビューや、スキマ時間にお楽しみいただけるコラムを紹介します。

コラム

2026.02.26

人生を豊かにする建築の見方──第6回 建築の見方を広げてくれる、建築家がおすすめする入門書 水谷元

サムネイル

建築の見方を学ぶ「人生を豊かにする建築の見方」、連載最終回となる第6回は、案内人である建築家の水谷元(みずたに・はじめ)さんに、これから建築を学んでみようという方におすすめの書籍をご紹介いただきました。入門として読める本でありながら、水谷さん自身が現在でも折に触れて読み返すという厳選したラインナップをお届けします。

 

 

======

西洋の名建築 解剖図鑑+日本の建築家 解剖図鑑+世界の建築家 解剖図鑑/エクスナレッジ

 

エクスナレッジの解剖図鑑シリーズは、分かりやすく特徴や歴史的背景をイラストを用いて解説しており、建築の入門編としてピッタリなシリーズです。それぞれの建築家や建築には写真集や著書がありますが、膨大な資料の目次のような役割を担ってくれるはずです。私自身もここに取り上げられている建築家や建築の名前や存在は知っていますが、興味をもたずにそのままにしてしまっていたものも少なくなく、仕事中の気晴らしにパラパラとめくり、新たな知との出会いになることがあります。

https://www.xknowledge.co.jp/book/9784767823348

https://www.xknowledge.co.jp/book/9784767825861

https://www.xknowledge.co.jp/book/9784767823522

 

 

火山のふもとで/松家仁之/新潮社

 

『火山のふもとで』は専門書ではなく、建築を志す青年を主人公にした小説です。実は松家さんは編集者時代に数多くの建築家に取材していた経歴があり、建築設計の現場の描写が非常に細かく、物語を通して実務の現場を体験できるでしょう。物語の要所にモデルとなった建築家や実在する建築の様子を垣間見ることができ、少し詳しい人ならば「モデルとなったのはあそこかな? あの人かな?」と楽しむことができます。

https://www.shinchosha.co.jp/book/105571/

 

 

集落の教え 100/原広司/彰国社

 

学生時代にテキストとして使用されていたもので、私が原広司さんと出会ったきっかけとなった書籍です。原広司さんは東京大学原研究室時代から世界中の集落を調査していました。集落の解説というよりも、ひとつひとつの集落について哲学的な言葉が綴られています。そこでの暮らしや空間を読み手に鮮明に伝えるような写真や言葉は理解ではなく、想像力と「捉える」力を養ってくれるような本です。余談ですが、集落調査時には原研究室の学生だった隈研吾さんも参加しており、原広司さんの弟子に当たります。

https://www.shokokusha.co.jp/?p=400

 

 

見えがくれする都市 (SD選書162) /槇文彦/鹿島出版会

 

建築と都市のつながりについて理解を深めてくれた何度も読み直す名著です。連載第5回の記事中でも紹介していますが、強い意思をもって計画された西洋的な都市ではなく、そこに暮らす共同体としての市民によって積み上げられてきた日本の街の空間の性質を「ひだ」「しわ」「奥」という言語を用いて解説しています。空間を構成するさまざまな要素に分解して理解することの大切さ、著書と実際に槇文彦さんの設計された空間がシームレスに繋がることで、理解こそが新しい創造の近道であることを教えてくれました。

https://kajima-publishing.co.jp/books/sd-books/qlpu_9cko-k/

 

 

建築を考える/ペーター・ツムトア、鈴木 仁子(訳)/みすず書房

 

「ペーター・ツムトアって、誰?」と思った方も多いと思いますが、スイスの建築家「ピーター・ズントー(Peter Zumthor)」のことです。200ページに満たない小さな本ですが、「その土地に根ざす」建築の根本を問い直すようなツムトアの建築と同様に、とても静かで洗練された言葉が綴れています。実務の現場でもデザインの決定を下すのになかなか至らない迷走の時間が多々ありますが、読み返すのにちょうど良いサイズとシンプルな言葉が助けてくれます。

https://www.msz.co.jp/book/detail/07655/

 

 

建築のデザイン・コンセプト/今井公太郎、大河内学、南泰裕、山中新太郎/彰国社

 

建築設計におけるデザイン(設計)には、必ず何かしらの理由があります。それは合理性だけに限らず、豊かな空間や形態を生み出す根拠になるわけですが、生み出される過程では必ずしも整理できているわけではありません。もっとすれば、生み出した当事者よりも、体験者(鑑賞者)のほうがよく深く捉え理解する場合もあります。この本は設計をはじめたばかりの学生を対象としてつくられている本ですが、歴史の転換点となった建築を参照しながら、25の要素に分解し、建築のデザインを分かりやすく解説しています。

https://www.shokokusha.co.jp/?p=5383

 

* * * * * *

 

最後に、過去5回のコラムを簡単に振り返って、連載の締めくくりとしたいと思います。まだ未読のものや、読み直したい記事がありましたら、以下のリンクからアクセスして読んでみてください。

 

第1回 建築を見る楽しさとは? では、連載の導入として、建築を見て楽しむとはどのようなことなのか、また建築を楽しむことがなぜ人生の豊かさにつながるのか、インタビュー形式で水谷さんに語っていただきました。「建築を構成する要素の1つ1つには、必ずなぜそうなっているのか、根拠がある」という前提に立つと、建築の見え方が根本的に変わってくるのではないでしょうか。

https://info.a-worker.com/a-magazine/4459/

 

第2回 空間を味わう では、水谷さんも大好きだという名建築、「法隆寺宝物館」(設計:谷口吉生)を例に、来館から帰路に至るまでの空間体験について深堀りしています。実際に建築に身を置いたつもりになって、建築家がどのような点に着目しているのか、追体験してみてください。
https://info.a-worker.com/a-magazine/4498/

 

第3回 じっくり見る 観察のためのヒント は、空間体験から一歩進んで、建築を成立させる要素に注目して観察するための基本をまとめた回。構造の成り立ちや、天井と壁、床の境界面のデザイン、人の手に触れる部分の考え方など、建築家ならではの視点が詰まっています。
https://info.a-worker.com/a-magazine/4621/

 

第4回 建築のまわり 風土や法規、施主の要望など建築を成立させる条件 では、ある建築がどのような状況に建てられているのかを見ることで得られる視点を解説します。キーワードは「公共性」そして「社会的な価値」。建築がどんな「まわり」と接続されているのかに、注目してみましょう。
https://info.a-worker.com/a-magazine/4980/

 

第5回 時間の中の建築 建築の歴史、都市の歴史、建物の歴史などを知る は、建築と時間がテーマです。建築の歴史においては時代ごとにデザインの潮流があり、建築家が取り組む課題も変遷してきました。その背景にはどのような社会の変化があったのでしょうか。
https://info.a-worker.com/a-magazine/5337/

 

全6回でお送りしてきた本連載を通して、少しでも建築を見る新たな視点が得られたり、建築について学ぶ足がかりとなっていたら幸いです。今回ご紹介した書籍リストも参考に、ぜひ気になった建築を実際に訪れ、建築を見る楽しさに触れてみてください。

 

(企画・編集:ロンロ・ボナペティ)

 

 

水谷元(みずたに・はじめ)

 

1981年兵庫県神戸市生まれ/福岡県福岡市の能古島育ち/九州産業大学にて森岡侑士に師事し、2004年に中退/2011年よりatelierHUGE主宰、2020年より水谷元建築都市設計室/著書に『現在知 Vol.1 郊外その危機と再生』(共著:NHK出版)、『地方で建築を仕事にする』(共著:学芸出版)、『臨海住宅地の誕生』(編集協力:新建築社)、日本建築学会2018年-2019年『建築雑誌』編集委員、九州大学『都市建築コロキウム』2020年前期非常勤講師

この記事をシェア

tag