
建築業界のリアルな情報や就職・転職活動で役立つ情報を紹介します。
2026.01.24
建築設計の著作権保護について初心者にも分かりやすく解説
建築物のデザインをめぐる紛争は、実務上少なくありません。
設計者が自らの創作したデザインを他者に模倣された場合、著作権法による保護を主張できるのでしょうか。
本記事では、建築設計における著作権の考え方と、実際の裁判例を通じて、その保護の難しさについて解説します。

建築設計の著作権は認められにくい
建築設計の著作権は認められにくいのが現状です。
建築設計が著作権保護を受けにくい理由として、まず建築物には実用性や機能性が強く求められる点が挙げられます。
建物は居住や事業活動など、具体的な用途のために建てられるものです。
そのため、間取りや構造は法規制や敷地条件、予算などの制約を受け、設計者の自由な創作の余地が限られてしまいます。
また、建築デザインには一定の様式や流行があり、多くの建築物で共通する要素が存在します。
例えば、住宅であれば玄関、リビング、寝室といった基本的な構成は類似せざるを得ません。
こうした「ありふれた表現」は創作性が認められず、著作権保護の対象外とされます。
建築設計の著作権に関する裁判例
建築設計の著作権をめぐっては、いくつかの重要な裁判例が存在します。
ここでは、実務上参考とされる代表的な3つの事件を紹介します。
グルニエ・ダイン事件
グルニエ・ダイン事件は、高級注文住宅シリーズの著作物性が争われた重要な事例です。
この事件で問題となったグルニエダインシリーズは、平成10年10月に通商産業省選定の平成10年度グッドデザイン賞を受賞しており、そのデザイン性が高く評価されていた建築物でした。
控訴人は、このような高い評価を受けた建築物であれば著作権保護を受けられると主張しました。
しかし判決では、一般住宅が「建築の著作物」として認められるためには、「客観的、外形的に見て、それが一般住宅の建築において通常加味される程度の美的創作性を上回り、居住用建物としての実用性や機能性とは別に、独立して美的鑑賞の対象となり、建築家・設計者の思想又は感情といった文化的精神性を感得せしめるような造形芸術としての美術性を備えた場合」に限られると判示されたのです。
特に注目すべきは、シリーズ化された高級注文住宅に対する裁判所の見解です。
判決では、「建築会社がシリーズとして企画し、モデルハウスによって顧客を吸引し、一般人向けに多数の同種の設計による一般住宅を建築する場合は、一般の注文建築よりも、工業的に大量生産される実用品との類似性が一層高くなり、当該モデルハウスの建築物の建築において通常なされる程度の美的創作が施されたとしても、『建築の著作物』に該当することにはならない」と指摘されました。
結論として、控訴人建物は、一般住宅の建築において通常加味される程度の美的創作性を上回っておらず、造形芸術としての美術性を具備しているとは言えないとして、著作権法上の「建築の著作物」には該当しないと判断されたのです。
この判例は、たとえグッドデザイン賞を受賞するような優れたデザインであっても、一般住宅については原則として建築の著作物に該当しないという厳格な基準を示した重要な事例です。
出典:裁判所ウェブサイト「平成14(ワ)1989平成15年10月30日 大阪地方裁判所著作権 民事訴訟」
シノブ設計事件
シノブ設計事件は、建築設計図に従って建物を建築した場合の複製権侵害が争点となった事案です。
著作権法第2条第1項第15号ロでは、建築の著作物の複製は「建築に関する図面に従って建築物を完成すること」と定義されています。
しかし、この事件では、設計図に従って建築すれば全ての場合に複製権侵害が成立するわけではないという重要な判断が示されました。
裁判所は、まず複製権侵害の成立要件について次のように述べています。
「建築設計図に従って建物を建築した場合でも、その建築行為は建築設計図の『複製』とはならない。本件設計図に表現されている観念的な建物が『建築の著作物』に該当しないかぎり本件建物の建築行為は『複製』権の侵害とはならない」としました。
つまり、完成した建築物が建築の著作物と認められるような創作性や芸術性を有していない限り、設計図に従って建築しても複製権侵害には該当しないということです。
さらに判決では、建築芸術に該当するか否かの判断基準について、「使い勝手のよさ等の実用性、機能性などではなく、もっぱら、その文化的精神性の表現としての建物の外観を中心に検討すべき」としました。
そして本件について、「右観念的な建物は一般人をして、設計者の文化的精神性を感得せしめるような芸術性を備えたものとは認められず、いまだ一般住宅の域を出ず、建築芸術に高められているものとは評価できない」と判断し、設計図に表現されている建物は建築の著作物に該当しないため、複製権侵害は成立しないとしました。
この判例は、設計図の保護と建築物の保護は別個の問題であり、建築行為が複製権侵害となるためには、完成する建築物自体が「建築の著作物」に該当する必要があることを明確にした重要な事例です。
出典:裁判所ウェブサイト「平成2(ヨ)105平成3年4月9日 福島地方裁判所著作権 民事仮処分」
ノグチ・ルーム事件
ノグチ・ルーム事件は、建築の著作物が単一の建築物に限られず、建物と庭園などが一体として一つの著作物と認められる可能性を示した事例です。
この事件では、著名な建築家谷口吉郎と彫刻家イサム・ノグチによって創作された空間の著作物性が問題となりました。
両者はノグチ・ルームを含む建物、庭園及び彫刻の製作について、共同作業として位置付けていました。
裁判所は事実関係を詳細に検討し、次のような認定を行いました。
「ノグチ・ルームは、本件建物を特徴付ける部分であって、庭園と調和的な関係に立つことを目指してその構造を決定されている上、本件建物は元来その一部がノグチ・ルームとなることを予定して基本的な設計等がされたものであって、柱の数、様式等の建物の基本的な構造部分も、ノグチ・ルーム内のデザイン内容とされている」としたのです。そして、「ノグチ・ルームを含めた本件建物全体が一体としての著作物であり、また、庭園は本件建物と一体となるものとして設計され、本件建物と有機的に一体となっているものと評価することができる」と判断しました。
最終的に裁判所は、「ノグチ・ルームを含む本件建物全体、庭園及び彫刻は一体となっていて、一個の建築の著作物を構成している」と認めました。
この判例の重要なポイントは、建築の著作物として認められるためには、各要素が有機的に一体となって全体として芸術性を備えている必要があるということです。
また、著名な建築家と芸術家による共同作業という特殊性も、著作物性が認められた要因の一つと考えられます。
ノグチ・ルーム事件は、建築の著作物の範囲と、複数の要素が一体として著作物を構成し得ることを示した貴重な事例ですが、一般的な建築物にこの基準を適用することは困難であり、極めて例外的なケースと言えるでしょう。
出典:裁判所ウェブサイト「平成15(ヨ)22031平成15年6月11日 東京地方裁判所著作権 民事仮処分」
まとめ
建築設計の著作権保護は、実用性と機能性が優先される性質上、認められにくいのが実情です。
裁判例からも、グッドデザイン賞受賞作品でさえ一般住宅では著作物性が否定され、設計図に従った建築も完成建物に芸術性がなければ複製権侵害とならないことが示されています。
著作物として認められるには造形芸術としての美術性が必要で、設計者は著作権以外の法的保護手段も検討すべきでしょう。

