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2025.12.27
建築物の省エネルギー基準とは|メリット・デメリットやポイントを解説
近年、地球温暖化対策の国際的な目標や、国内のエネルギー情勢を背景に、建築物の省エネルギー基準の重要性が高まっています。
特に、2025年4月からは原則すべての新築建築物に基準適合が義務化されることになり、住宅建築に関わるすべての人にとって、この基準を理解することは不可欠です。
本記事では、建築物の省エネルギー基準の基本的な定義、義務化の背景、2025年の主な変更点、そして導入によるメリット・デメリット、今後の対応策について解説します。

建築物の省エネルギー基準とは
建築物の省エネルギー基準とは、建物が消費するエネルギー量を抑制し、快適な室内環境を維持するために、断熱性能や設備機器の効率などに関する技術的な仕様を定めたルールです。
この基準は、主に以下の2つの要素から構成され、住宅の省エネルギー性能を総合的に評価します。
外皮性能基準
屋根、壁、窓といった建物と外気の境界部分(外皮)の断熱性能や日射遮蔽性能に関する基準です。
熱の逃げにくさを示す「外皮平均熱貫流率(UA値)」と、日射熱の入りにくさを示す「平均日射熱取得率(ηAC値)」という指標で評価されます。
値が小さいほど、性能が高いことを示します。
出典:経済産業省「住宅における外皮性能」
一次エネルギー消費量基準
冷暖房、換気、照明、給湯などの設備機器が消費するエネルギー量を総合的に評価する基準です。
未加工のエネルギー源である一次エネルギーの単位で評価することで、建物のエネルギー利用効率を統一的に判断します。
基準を満たすには、「BEI(Building Energy Index)」という指標が1.0以下である必要があります。
省エネルギー基準が定められた背景
省エネルギー基準が強化され、義務化へと進められてきた背景には、以下の重要な社会的要請があります。
【2050年カーボンニュートラルの実現】
日本は2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする目標を掲げています。
建物からのCO2排出量削減は、この目標達成に不可欠です。
冷暖房などのエネルギー消費を抑える省エネ化は、CO2排出量削減に直結します。
【エネルギーセキュリティの確保】
エネルギー資源の多くを輸入に頼る日本にとって、エネルギー消費を抑制することは、国内のエネルギー自給率向上と、国際情勢に左右されない安定的なエネルギー供給体制の確保に寄与します。
これらの背景から、建築物省エネ法が制定され、段階的に基準が強化されてきました。
出典:環境省・脱炭素ポータル「カーボンニュートラルとは」
2025年に義務化された省エネルギー基準の変更点
2022年6月に公布された改正建築物省エネ法により、2025年4月からは、新築建築物に関する省エネルギー基準の適合が義務化されます。
主な変更点は以下の通りです。
対象は原則すべての新築建築物
これまで、住宅の省エネ基準適合は努力義務や届出制度、説明義務が中心でした。
しかし、2025年4月以降に建築確認を申請する原則すべての新築住宅(延べ面積2,000平方メートル以下)・非住宅が、省エネルギー基準への適合義務の対象となります。
地域ごとに異なる外皮性能基準
日本は南北に長い地形を持つため、沖縄と北海道では気候条件が大きく異なります。
そのため、省エネ基準における外皮性能基準は、全国を8つの地域区分に分けて設定されています。
例えば、寒冷地である北海道(1・2地域)では、冬の暖房エネルギーを抑えるために厳しいUA値基準が設定されており、一方で温暖な地域(6・7・8地域)では、夏の冷房エネルギーを抑えるためのηAC値がより重視されます。
このように、地域の気候特性に応じた基準値が設けられることで、それぞれの地域で最も効果的な省エネ対策が実現できるようになっています。
一次エネルギー消費量基準の数値
前述の通り、冷暖房や給湯などの設備を含めた総合的なエネルギー消費量を評価する「一次エネルギー消費量基準」も満たす必要があります。
この基準は、「基準値からの削減率」で判断され、一般的に「BEI」という指標で示されます。
BEIは、設計した建物の一次エネルギー消費量を、標準的な省エネ基準を満たす建物の一次エネルギー消費量(基準一次エネルギー消費量)で割って算出されます。
省エネ基準を満たすには、このBEIの値が1.0以下である必要があります。
省エネルギー基準への審査手続きが必須
2025年4月の法改正により、省エネ基準適合義務の対象が拡大されたことに伴い、建築確認手続きの中で省エネ基準への適合性審査が実施されるようになりました。
これは、省エネ基準に適合しない建築物は建築確認済証が交付されず、着工できないことを意味します。
審査手続きでは、建築主または設計者が所管行政庁または民間の登録建築物エネルギー消費性能判定機関に申請書を提出する必要があります。
申請書には、建築物の設計図書や省エネルギー計算書などを添付しなければなりません。
このように、省エネ基準への適合を建築確認の必須要件とすることで、すべての新築建築物の省エネ性能が担保され、脱炭素社会の実現に向けた取り組みが加速することが期待されています。
省エネルギー基準に関するメリット
省エネルギー基準に適合した建築物には、さまざまなメリットがあります。
ここでは、主なメリットを3つご紹介します。
エネルギー消費量が削減する
省エネ基準に適合した建築物の最大のメリットは、エネルギー消費量を大幅に削減できることです。
高断熱・高気密の構造により、外気温の影響を受けにくくなるため、冷暖房の使用量を最小限に抑えることができます。
長期的に見れば、初期投資が高くなっても、毎月の光熱費削減によって十分に回収できる場合が多く、経済的なメリットは非常に大きいと言えます。
また、エネルギー消費量の削減は、地球温暖化の原因となる二酸化炭素の排出削減にもつながり、環境保護にも貢献できるのです。
1年中快適に暮らせる
省エネ基準に適合した建築物は、断熱性能と気密性能に優れているため、夏は涼しく冬は暖かい快適な室内環境を実現できます。
一般的な住宅でよくある「キッチンの足元が冷える」「トイレや浴室が寒い」「リビングは涼しいけれど寝室が蒸し暑い」といった悩みを解消することができます。
特に重要なのは、室内の温度差が少なくなることです。
冬場に温かいリビングから寒い浴室やトイレに移動した際に起こる急激な温度変化は、血圧の急上昇や急降下を引き起こし、ヒートショックという健康リスクに繋がります。
高齢者にとっては命に関わる問題ですが、高断熱・高気密の省エネ住宅では、家全体の温度が均一に保たれるため、こうした健康リスクを大幅に軽減できます。
また、夏場の熱中症予防にも効果的です。
外気温が高い日でも室内は快適な温度を保ちやすく、体への負担が少ない環境で過ごすことができます。
このように、省エネ基準に適合した建築物は、エネルギー効率だけでなく、居住者の健康と快適性の向上にも大きく貢献します。
住宅の劣化を防止する
高断熱・高気密の省エネ住宅は、結露の発生を抑制する効果があります。
結露は、室内外の温度差によって窓や壁に水滴が付着する現象ですが、これが繰り返されると、カビやダニの発生原因となります。
カビやダニは、アレルギーや喘息などの健康被害を引き起こすだけでなく、建物の美観も損ないます。
さらに深刻なのは、結露が建物の構造材にまで影響を及ぼすことです。
壁の内部で発生する内部結露は、柱や梁などの木材を腐朽させ、シロアリの被害を招きやすくなります。
これにより、建物の耐久性が低下し、大規模な修繕が必要になる可能性があります。
省エネ基準に適合した建築物では、断熱性能と気密性能が高いため、このような結露の発生を最小限に抑えることが可能です。
その結果、建物の躯体や内装材の劣化を防ぎ、建物の寿命を延ばすことができます。
断熱性・気密性は、まさに「長寿命住宅」を実現するための重要な要素と言えるでしょう。
長期的に建物の資産価値を維持し、修繕コストを抑えるという観点からも、省エネ基準への適合は大きなメリットがあります。
省エネルギー基準に関するデメリット
省エネルギー基準には多くのメリットがある一方で、いくつかのデメリットも存在します。
ここでは、主なデメリットを2つご紹介します。
コストがかかる
高性能な断熱材、高効率の窓、高効率な設備を採用する必要があるため、一般的な住宅に比べて建築時の初期費用が割高になる傾向があります。
ただし、これは光熱費の節約や資産価値の向上といった長期的なメリットと合わせて総合的に評価することが重要です。
適切なメンテナンスが必要である
省エネルギー基準に適合した建築物は、高性能な設備や建材を使用しているため、それらを長期間にわたって適切に機能させるためには、定期的なメンテナンスが欠かせません。
例えば、高気密・高断熱住宅では、計画的な換気が非常に重要になります。
気密性が高いため、自然換気だけでは室内の空気が十分に入れ替わらず、湿気や汚れがこもりやすくなります。
そのため、24時間換気システムなどの機械換気設備を適切に稼働させ、定期的にフィルターの清掃や交換を行う必要があります。
また、太陽光発電システムを導入している場合は、パネルの定期点検や清掃が必要です。
故障や劣化を放置すると、発電効率が低下し、期待していた省エネ効果が得られなくなる可能性があります。
さらに、断熱材や防湿シートなどの性能を維持するためには、定期的な点検が推奨されます。
特に経年劣化による性能低下は目に見えにくいため、専門家による診断を受けることが望ましいでしょう。
このように、省エネ住宅のメリットを最大限に活かすためには、適切なメンテナンスを継続的に行うことが不可欠です。
メンテナンスにかかる時間やコストも考慮に入れて、計画的に管理していく必要があります。
省エネルギー基準義務化への対応
省エネルギー基準の義務化に円滑に対応するためには、建築業界全体での準備と体制整備が重要です。
ここでは、義務化への効果的な対応方法を3つ紹介します。
詳細な計画を立てる
省エネ基準への適合は、設計の初期段階で性能目標を明確にし、断熱仕様や設備選定について詳細で具体的な計画を立てることが極めて重要です。
複雑な省エネ計算を伴うため、専門的な知識を持った人材の確保や育成、外部専門家との連携も必要になります。
情報共有システムを導入する
省エネルギー基準義務化への対応では、設計者、施工者、審査機関、建築主など、多くの関係者が連携して業務を進める必要があります。
そのため、関係者間で情報を円滑に共有できるシステムを導入することが効果的です。
具体的には、クラウドベースのプロジェクト管理ツールや情報共有プラットフォームを活用することで、設計図書や省エネ計算書、審査の進捗状況などをリアルタイムで共有できます。
これにより、情報の伝達ミスや漏れを防ぎ、関係者全員が最新の情報を把握できる環境を整えることが可能です。
また、省エネ適合性判定に関する質疑応答や指摘事項への対応も、システム上で一元管理することで、対応の迅速化と記録の保全が可能になります。
過去のプロジェクトで蓄積された知見やノウハウをデータベース化して共有すれば、類似案件での効率化にも繋がるでしょう。
さらに、BIMなどのデジタルツールを活用すれば、設計段階から省エネ性能をシミュレーションし、最適な設計案を検討することも可能です。
これにより、設計の手戻りを減らし、確実に省エネ基準をクリアできる設計を実現できます。
デジタル技術を活用する
省エネルギー基準義務化への対応を効率化するためには、デジタル技術の積極的な活用が有効です。
特に、省エネ計算や設計業務の自動化・効率化に役立つツールやソフトウェアの導入が推奨されます。
省エネ計算については、専用の計算ソフトウェアを使用することで、手計算に比べて大幅に作業時間を短縮できます。
また、一部のCADソフトには省エネ計算機能が統合されているものもあり、設計と計算を一体的に進めることが可能です。
まとめ
建築物の省エネルギー基準は、地球温暖化対策と快適な住環境の両立に不可欠な基準であり、2025年4月からは原則すべての新築建築物に適合が義務付けられています。
適合住宅は、建築時の初期コストは増えるものの、光熱費の削減、ヒートショックの低減、住宅の長寿命化といった多くのメリットを得られます。
義務化は建築業界に変化をもたらしますが、デジタル技術の活用や詳細な計画策定を通じて、高性能で持続可能な住まいづくりを加速させるきっかけとなるでしょう。

