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2025.12.27
日本のコンパクトシティ|成功事例やメリット・デメリットを解説
人口減少と高齢化が進む日本では、持続可能な都市づくりとしてコンパクトシティが注目されています。
都市機能を集約することで、行政コストの削減や生活利便性の向上が期待できる一方、課題も存在するのです。
本記事では、コンパクトシティの基本概念から富山市などの成功事例、メリット・デメリットまで詳しく解説します。

コンパクトシティとは
コンパクトシティとは、都市機能を中心部に集約し、効率的な都市構造を実現する都市計画の概念です。
居住エリア、商業施設、医療・福祉施設、行政機関などを一定のエリアに集中させることで、徒歩や公共交通機関で日常生活が完結できる「コンパクトな街」を目指します。
この概念は、拡散した都市構造による問題を解決するために注目されています。
無秩序に広がった市街地では、インフラ維持コストの増大や公共サービスの非効率化が課題となっていました。
コンパクトシティは、これらの問題に対する解決策として、持続可能な都市形成の手法と位置づけられています。
建築・都市計画の分野では、単なる物理的な集約だけでなく、人々の生活の質を高める「質の高い密度」の実現が重要視されています。
街区レベルでの建築配置や、ヒューマンスケールを意識した空間設計など、建築学的なアプローチも求められる総合的な都市戦略といえます。
コンパクトシティに需要がある背景
コンパクトシティに需要がある背景は、大きく2つあります。
大都市にいる高齢者の急増
東京、大阪、名古屋などの大都市圏では、今後高齢者人口が急激に増加すると予測されています。
特に団塊世代が後期高齢者となる2025年以降は、医療・介護需要が爆発的に増大する見込みです。
大都市では既に市街地が広範囲に広がっており、高齢者が郊外の住宅地に居住したまま高齢化すると、通院や買い物などの日常移動が大きな負担となります。
また、広域に分散した高齢者に対して効率的に医療・福祉サービスを提供することも困難です。
このため、都市機能を集約し、高齢者が車に頼らずとも生活できる環境を整備することが急務となっています。
バリアフリーな歩行空間や公共交通網の充実、医療・商業施設の近接配置など、高齢社会に対応した都市構造への転換が求められているのです。
地方都市の急激な人口減少と高齢化
地方都市では、若年層の流出による人口減少と高齢化が同時進行しています。
人口が減少する一方で市街地は拡散したままのため、一人当たりのインフラ維持コストが増大し、自治体財政を圧迫しています。
人口密度の低下により、商店街の衰退や公共交通機関の廃止が進み、生活利便性が低下するという悪循環も生じています。
特に自動車を運転できない高齢者にとっては、日常生活を維持することすら困難になりつつあります。
このような状況下で、限られた財政資源を効率的に活用しながら住民の生活の質を維持するには、都市機能を集約して持続可能な都市構造を構築することが不可欠です。
地方都市こそ、コンパクトシティ政策の実効性が問われる場となっています。
コンパクトシティを形成する際のポイント
コンパクトシティを形成する際のポイントを見ていきましょう。
公共交通機関を整備する
コンパクトシティの実現には、質の高い公共交通ネットワークの構築が欠かせません。
LRT(次世代型路面電車)やBRT(バス高速輸送システム)など、利便性の高い交通手段を基幹軸として整備することで、自動車に依存しない移動環境を創出します。
交通結節点の周辺に住宅や商業施設を集積させることで、徒歩圏内で日常生活が完結する拠点を形成します。
建築計画においても、駅前広場との接続性や歩行動線を重視した設計が求められます。
中心市街地活性化政策を活用する
中心市街地活性化法に基づく支援制度を効果的に活用することで、都心部への都市機能集積を促進できます。
この政策では、商業施設の整備や空き店舗対策、イベント開催支援など、多様な施策が用意されています。
重要なのは、単に商業機能だけでなく、居住機能や文化機能など多様な都市機能を複合的に配置することです。
昼間人口だけでなく夜間人口を増やすことで、24時間活気のある街を形成できます。
用途変更により、既存建築物をリノベーションして住宅や複合施設として再生する手法も有効です。
関係省庁・施策と連携する
コンパクトシティの実現は、都市計画だけでは完結しません。
国土交通省の都市再生施策、農林水産省の農地政策、経済産業省の商業振興策、厚生労働省の医療・福祉施策など、多様な分野の政策を統合的に活用することが必要です。
また、民間事業者との連携も重要です。
開発事業者、交通事業者、商業事業者などとの協働により、官民一体となった都市づくりを推進することで、実効性の高いコンパクトシティ政策が実現します。
コンパクトシティの成功事例
ここからは、コンパクトシティの成功事例を紹介します。
富山県富山市
富山市は、日本のコンパクトシティ政策の先進事例として国内外から注目を集めており、一級建築士試験でも頻出する重要な都市計画の実践例です。
2006年に日本初の本格的LRT(次世代型路面電車)である「富山ライトレール」を開業させ、公共交通を軸としたまちづくりをスタートさせました。
LRTの導入は単なる交通手段の整備にとどまりません。
公共交通沿線地区への居住促進策と連動させることで、交通ネットワークの活性化と都市構造の再編を同時に実現しています。
一級建築士試験では、このLRT導入による公共交通の活性化、公共交通沿線地区への居住促進、中心市街地の活性化という3つの効果が重要なポイントとして出題されています。
福岡県福岡市
福岡市は、もともと比較的コンパクトな都市構造を持っていましたが、さらなる機能集積と利便性向上を図っています。
天神・博多という2つの核を持つ双核構造を活かしながら、それぞれのエリアで大規模な再開発プロジェクトが進行中です。
天神ビッグバンや博多コネクティッドといった民間主導の開発により、業務・商業・居住機能が高度に集積した都心空間が形成されています。
また、都市のコンパクト性が創造産業の集積にも寄与し、スタートアップ企業が多く生まれる環境となっています。
経済活力とコンパクト性を両立させた成功モデルです。
愛媛県松山市
松山市は、地方中核都市としてコンパクトシティ政策に取り組んでいます。
市内を走る路面電車を活用し、公共交通を軸とした都市構造の再構築を進めています。
中心市街地では、商店街のアーケード整備や歩行者空間の充実により、歩いて楽しめる街づくりを実現しています。
また、郊外部の無秩序な開発を抑制しながら、中心部への居住誘導を図る施策を展開しています。
道後温泉などの観光資源と都市機能を適切に連携させ、観光と日常生活が共存する魅力的な都市空間を創出しています。
歴史的資源を活かしながら現代的な都市機能を集積させる、文化と利便性が調和したコンパクトシティの好例です。
埼玉県蕨市
蕨市は、面積わずか5.11平方キロメートルという日本で最も面積の小さい市でありながら、人口密度は全国トップクラスです。
この地理的特性を活かし、自然発生的にコンパクトな都市構造が形成されています。
JR蕨駅を中心に商業施設や公共施設が集積し、市内のどこからでも徒歩や自転車でアクセスできる範囲に都市機能が収まっています。
小規模な市域だからこそ実現できる高密度な都市構造により、行政サービスの効率性と住民の利便性が高い水準で両立しています。
大規模な公共投資に頼らず、既存の都市構造を活かしながらコンパクト性のメリットを享受している点が特徴的です。
都市規模に応じた適切なコンパクト化の在り方を示す事例と言えます。
出典:蕨市公式サイト「市長の部屋」
熊本県熊本市
熊本市は、平成16年5月に「都市計画区域マスタープラン」を策定し、公共交通路線沿いへの居住機能や都市機能の集積を推進するコンパクトシティ政策に取り組んでいます。
市電とバスネットワークを基軸に、公共交通指向型の都市構造への転換を図っています。
中心拠点では、バスターミナル・商業施設・住宅・MICE施設などを統合した複合施設の整備を計画しており、多様な都市機能を一体化した建築プロジェクトが進行中です。
また、地域拠点には基幹公共交通とフィーダーバス路線との乗り継ぎ施設の整備を検討し、中心拠点と地域拠点を結ぶバス路線の再編や急行バスの導入により、効率的な交通ネットワークの構築を目指しています。
公共交通の強化と都市機能の集積を同時に進める、戦略的なコンパクトシティの実践例です。
岩手県花巻市
花巻市は、東北地方の地方都市として、人口減少に対応したコンパクトシティ政策を展開しています。
特筆すべき取り組みとして、老朽化した総合花巻病院の市中心部への移転プロジェクトがあります。
2020年3月の移転により、医療・福祉機能を核とした中心市街地活性化を実現しました。
さらに重要なのは、医療・介護・生活支援などを統合した「地域包括ケアシステム」の構築です。
新病院を中心に、高等看護学校や認可保育園などを複合的に展開することで、年間80万人の交流を見込んでいます。
建築計画においても、これら多機能を有機的に連携させる配置計画が重要な設計課題となっています。
コンパクトシティのメリット
都市機能を集約するコンパクトシティには、行政コストの削減や環境負荷の軽減、経済活性化など多様なメリットがあります。
ここでは、持続可能な都市づくりを実現する主な利点について詳しく解説します。
行政サービスが充実する
都市機能が集約されることで、行政サービスの提供効率が大幅に向上します。
上下水道、道路、公共施設などのインフラ維持管理コストが削減され、限られた財源をより効果的に活用できます。
人口密度が高いエリアに集中的にサービスを提供することで、同じ予算でもより質の高いサービスが実現可能になります。
図書館、文化施設、スポーツ施設など、多くの住民がアクセスしやすい場所に配置することで、施設の利用率も向上します。
また、緊急時の対応も迅速になります。
救急車や消防車の到達時間が短縮され、災害時の避難誘導や支援物資の配布なども効率的に行えます。
行政の効率性向上は、結果として住民サービスの質的向上につながるのです。
環境問題が改善する
コンパクトシティは、環境負荷の低減に大きく貢献します。
自動車利用が減少することで、CO2排出量や大気汚染物質が削減され、地球温暖化対策にも有効です。
徒歩や自転車、公共交通機関での移動が増えることで、エネルギー消費量も抑制されます。
建築分野では、集合住宅や複合施設の増加により、戸建て住宅と比較してエネルギー効率の高い住環境が実現します。
共用壁による断熱効果や、設備の共有による効率化など、建築物のエネルギー性能向上にも寄与します。
経済が活性化する
都市機能の集積により、経済活動が活性化します。
人の集まる中心市街地では、商業施設の売上が向上し、新規出店も促進されます。
賑わいが賑わいを呼ぶ好循環が生まれやすくなるのです。
移動負担が軽減する
コンパクトシティでは、日常生活に必要な施設が近距離にまとまっているため、移動の負担が大幅に軽減されます。
買い物、通院、通勤・通学などが徒歩や自転車でも可能になり、時間的・経済的なコストが削減されます。
特に高齢者や子育て世代にとって、この利便性向上は生活の質に直結するのです。
コンパクトシティのデメリット
一方で、コンパクトシティには居住地域の制約や物価上昇などの課題も存在します。
都市のコンパクト化を進める際に想定されるデメリットを理解し、適切な対策を講じることが重要です。
居住地域が限定される
コンパクトシティ政策では、居住を推奨するエリアが限定されるため、居住地選択の自由が制約される側面があります。
郊外の広い土地に一戸建て住宅を構えたいという希望を持つ人にとっては、政策の方向性と個人の志向が合致しない場合があります。
また、居住誘導区域外に住む住民は、公共サービスの水準低下や地価の下落などの不利益を被る可能性があります。
隣人トラブルが増加する
人口密度が高まることで、住民同士の物理的距離が近くなり、騒音やプライバシーに関するトラブルが増加する可能性があります。
集合住宅では特に、生活音や生活時間帯の違いによる軋轢が生じやすくなります。
建築設計においては、遮音性能の確保や適切な住戸配置など、プライバシーと快適性を両立させる工夫が重要になります。
共用部分の適切な管理や、コミュニティ形成の仕組みづくりも必要です。
物価の高騰が懸念される
都市機能が集約され利便性が向上したエリアでは、地価や家賃が上昇する傾向があります。
コンパクト化によって生活コストが増大しては、住民の経済的負担が重くなってしまいます。
この課題に対しては、公営住宅の適切な配置や家賃補助制度など、多様な所得層が共存できる包摂的な都市づくりが必要です。
まとめ
コンパクトシティは、人口減少・高齢化社会における持続可能な都市構造として注目されています。
公共交通の整備や都市機能の集約により、行政効率の向上、環境負荷の軽減、経済活性化、移動負担の軽減といった多様なメリットが期待できます。
富山市や福岡市など各地の成功事例からは、地域特性に応じた戦略の重要性が示されています。
一方で、居住地域の制約や物価高騰などのデメリットにも配慮しながら、質の高い都市空間を創造していくことが求められているのです。

